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55億円の「設計書」たち…プログラムではないので動きません

Column Development コンピュータ システム 仕事 開発

デスマーチ第二版

まだ続いていたんだという、驚き

 特許庁は24日、2006年から始めた新たな情報システムの開発を中断することを決めた。これまでに55億円の予算を投じたが、別のシステムを考える。枝野幸男経済産業相は「大変申し訳なく思う」と謝った。  新システムは特許の出願や登録に使い、中国の特許情報を調べられ、国際化への対応もねらっていた。開発の遅れで、特許を申請する利用者は、機能の低い古いシステムを使い続けることになる。特許庁は中国の情報検索などができる最低限のシステムに絞り、別の方式で開発する。  新システムの開発期間は06年12月から14年1月。設計を東芝ソリューションと、開発管理をアクセンチュアと契約した。  開発の遅れは、主に設計の不備が原因。特許庁は検証委員会を設け対応を考えてきたが、委員会は23日、中断を求める報告書をまとめた。業者が今までに作ってきた設計情報は、特許庁の別のシステム開発に生かしていくという。
朝日新聞デジタル:費やした55億円、水の泡に 特許庁がシステム開発中断 - ビジネス・経済

この記事を見てまず驚いたのは、この開発はまだ続いていたんだ! ということでした。 「まだ」というのは、今を去ること2年前、特許庁のシステムはこんな事件で話題になっていました。

志摩被告の起訴状によると、2005年8月ごろから昨年11月ごろにかけ、新システム設計開発事業に関する情報を伝える見返りとして、NTTデータで当時、統括部長兼営業担当部長だった沖被告から計約250万円分のタクシー代をわいろとして受け取った、としている。
収賄罪で技官を起訴 特許庁汚職 - 47NEWS(よんななニュース)

特許庁発注のコンピューターシステム設計開発事業をめぐる汚職事件で、収賄罪で起訴された同庁技官のほかに職員3人が、複数のシステム開発会社側から飲食接待やタクシー代の肩代わりなどで計約94万円近くの利益供与を受けていたことが20日、分かった。
特許庁職員3人に利益供与 飲食、タクシーで94万円 - 47NEWS(よんななニュース)

実はこの事件を受けての調査報告書では、利益供与問題の再発防止策と並んで、開発状況の調査も行なっています。

2010年8月時点での調査報告書の内容

調査報告書 特許庁情報システムに関する調査委員会(PDF注意) http://www.meti.go.jp/press/20100820003/20100820003-2.pdf

利益供与・文書流出の再発防止(事実解明チーム)

まとめは、P.34からになります。 最初の2項目は「倫理意識の徹底」「情報管理の整備強化」とありがちな内容でおもしろみがありませんでしたが、3つめが「入札手続きの改善」とあってなかなか読ませます。(P.36から)

供与した事業者の側には、短い提案期間でよりよい提案書をまとめあげようとする動機があった。 収賄した3職員は、受注のプロセスには携わっていなかったのですが、より良いシステムを作るために外部の専門家に意見をもらいたいと考えていたこと、背景にあるんだよ…という内容です。

よりよいものを作りたいと思いに、入札・応札のルールが足枷になっているのだったら、出すべき情報はとっとと出して、接待して情報を得ようとするようなことはなくすようにしたらどう? という、このような調査報告書としては、わりと具体的な提案がされている印象を受けました。

とはいえ、今となっては、この点はあまり重要ではなくなっていますね。

開発状況の分析(技術検証チーム)

この時点で喫緊の課題となっていたのは、開発の遅れということで、上記の利益供与の再発防止とは、独立した調査として、TSOLによる設計と、アクセンチュアによるプロジェクト管理、特許庁の取り組みについて分析が行われています。(P.63から)

「提言」という形をとっていますが、結論としては、

  • 発注者の特許庁は責任感持って仕事しろ(P.68)
  • プロジェクト管理支援のアクセンチュアは特許庁とTSOLの合意の上、対策案を実施させるまでが仕事だろ(P.72)
  • 設計一次請けのTSOLは、今まで設計してきたメンバーで固定しろ(P.75)
  • 特許庁は現行システム担当のNTTデータに対して、必要な情報を提示するよう、働きかけるように(P.76)
  • 再開するなら、特許庁中心にプロジェクト憲章を作成して、役割分担と責任を明確にしろ(P.78)

となっています。

「技術」検証というわりには、プロジェクト管理に関する指摘が目立つ内容になっています。 外部の人が調査しても、中身が合っているかよくわからないから「品質管理プロセス」へのツッコミが多くなったのでしょう。 こんな状況だったので、てこ入れして、どうにかなりそうならGo、どうにもならなそうだったらSTOPの判断をすることになるだろうな。設計の品質もぼろぼろみたいだし、STOPがかかるんだろうな。 と思っていた次第です。

2012年1月時点での調査報告書の内容

技術検証報告書 ~フォローアップ結果とりまとめ~ (PDF注意) http://www.meti.go.jp/press/2011/01/20120124001/20120124001-2.pdf

再開に向けて動き出したのでしょうが、それから、1年半経過して、やっぱダメ、ギブアップということになりました。 上記報告書で挙げられた「提言」に対して、ぜんぜん取り組めていないよね、という内容になっています。 それだけでも残念な事態ではあるのですが。

そもそも7年かけて開発してたら…

新聞報道だと、設計担当のTSOLの品質が悪者にされていますが、実際これだけお金をかけて、まだ動くものが作れていない…というのは、全部一括ではなくて、機能別に発注するとか別のやりようがあったんじゃないのか?という疑問です。

だって、そもそもの予定では丸7年もかけて、開発しようとしていたんですよ。 7年たってたら、外部環境は相当変化していますよね。

その点に関しては、報告書のpp.8-9が答えてくれています。

とりわけ国際的環境は大きくかつ急速に変化しており、その結果、早急にシステム構築の必要な新たな政策項目や、対応優先順位を上げなければならない政策項目が顕在化しつつある。例えば、特許審査においては外国文献検索の重要性が急激に増大しており、外国文献に対応できる新たな検索システムの構築が喫緊の課題となっている。 こうした外部環境の変化を踏まえると、プロジェクトの再開に当たり、現行の一括開発手法を引き続き採用するとなると、最終稼働までの間、今後複数年にわたって政策項目の実現が先送りとなってしまうことに加え、これまで同様、遅延等のリスクを伴う可能性も大きい。 そこで、特許庁において、プロジェクトの再開に当たっては、特許庁CIO主導の下、このような外部環境の変化を取り込んだ改定最適化計画を策定するとともに、一括開発手法にこだわらず、実現性の高い新たな手法を採用することも視野に入れて今後のプロジェクトの進め方を検討する必要があると考えられる。

一括開発手法にこだわらないという、上記の結論に2010年の報告書の時点で至っていれば、55億円かけて、「設計書」なるものが大量に作成されて、動くプログラムができてないなんてことになってないのではないかなと考えるわけです。 特許をとりまく状況を受けて、優先順位が高い機能から細切れにして開発していくようにすれば、よかったんじゃないかなーと。

でも、ここでキッパリやりなおすのは英断だと思いますけどね。 埋没費用 - Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8B%E6%B2%A1%E8%B2%BB%E7%94%A8

最後に

身近なところで、5年かけて開発して、動いているけどゴニョゴニョ…な例を聞いていたので、明日は我が身の思いとともに、そこそこ読みこんでしまいました。報告書を読んでなにを感じるかは、その人の経験に依存する部分も多いと思います。

外部要因で優先順位がころころ変わるなら、それに対応する手法を、契約、意志判断、設計・開発でとるべきなんだろうな…ということを、これからの私の仕事でも念頭に置いておきたいと思います。

デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか

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