『日本海軍 400時間の証言 第三回 戦犯裁判 第二の戦争』を見て

NHKスペシャルで放送されたこの番組は、旧海軍の高級将校が月に1回集まって、敗戦にいたった原因を分析しようという会「海軍反省会」の録音テープがベースになって構成されていた番組です。


NHKスペシャル|日本海軍 400時間の証言 第三回 戦犯裁判 第二の戦争 http://www.nhk.or.jp/special/onair/090811.html


昨日(第二回)一昨日(第一回)に続き、番組の流れと印象に残った発言でまとめてみたいと思います。

第三回は非常に濃い証言が飛びだしてきました。期待どおりです。 今まで見てきた東京裁判関連の書物の隙間と裏を埋めている印象です。

番組の流れ

上を守り、下を切り捨てる組織の姿をうきぼりにするのが今回のストーリーのようです。

第二復員省

昭和20(1945)年11月30日に、海軍は解体された。その翌日「第二復員省」ができる。軍令部のメンバーも多く第二復員省に籍をうつした。 戦時中はドイツに駐在していたため、一度も前線にたつことがなかった豊田大佐は帰国して、第二復員省で裁判対策を担当することになった豊田大佐は手記のなかで「これからが私の戦争」と書きのこしている。

トップを守れ

元軍令部の面々は戦争犯罪というのは講和条約が結ばれるまでの一時的なものだと考えていた。 「終身刑になっても講話まで頑張れば大丈夫」

そこで開戦当時の海相、嶋田大将を死刑にならないようにするため、裁判対策を徹底した。 嶋田は、A級: 平和に対する罪は、開戦時に海軍大臣だったことで免れられない。 B級: 戦争犯罪(捕虜の虐待、海上にあるものの虐殺)の責任も認められてしまうと死罪の可能性が高くなる。

B級にあたる事例としては、潜水艦隊が行なった連合国商船への攻撃と乗組員の殺害がこれにあたる。 本物の命令書が証拠として提示されたが、証人の三戸少将は「偽物」と証言した。

「一切証拠をあげるな。結局、本質にならなければよい」 真実は検事には伝わらなかった。

現場への責任転嫁

豊田大佐の同期だった篠原大佐は、BC級の裁判にかけられ兵士や下士官に罪が及ばないように処刑の責任を認め、絞首刑に処せられた。現地司令部の関与を示す、司令部の法務官は帰国後行方をくらませている。

累を組織の上のほうへ及ばさないようにするにはどうしたらいいか。 BC級戦犯の弁護方針には「罪を現地司令官までで止めること」とある。

豊田大佐は戦中、軍令部にいたメンバーに「捕虜、民間人の扱いについて考えていたのか?」問いかけるが「一兵でも多く敵兵を殺す気分」があって、考えていないということがわかった。

中国にいた大井大佐は、飛行場を作るために現地住民を大量に殺害したと示唆する発言をしている。 その事件があったのは、太平洋戦争突入前。 「勝っているときもやっているんだ」 「満州、日中戦争のくせがついた」

消された事件

しかし、大井大佐の語った事件はどんなものだろうか。 当時の現地住民からは、「家族を集めて点呼して、いなければ殺される」「泣き叫ぶ妹を殺して家族は日本軍から逃れた」などの証言はあるのだが。 12,000人いた島の住民の多くは逃亡し、「掃討作戦」により人口を1,800人まで減らしたとの海軍の報告書は残っているが、「飛行場を作るために死臭がひどくなるほど」という大井大佐の語るような事件の記録はない。

裁判とGHQ

元号が平成にかわって2ヶ月たった、平成元年の海軍反省会では、元海軍省担当記者が天皇の戦争責任について言及している。 参加した将官からは「天皇に戦争責任はない」旨の返答ばかり。 しかし、豊田大佐は「戦争責任が追求される可能性があった」との認識があり、答弁がまちまちにならないように、答案の骨子を作成していた。

描いたストーリーは、「陸軍の強硬な姿勢に戦争の原因があり、海軍はそれに引きづられた」 占領軍の側からもマッカーサーの立場を悪くしないために「天皇には戦争責任がないことを日本人が立証してくれるのがよい」との発言があったと、米内元海相から通じて豊田大佐は聞いている。

遺された裁判資料

天皇を戦争責任の追求から守るために、偽証をし、あったかもしれない事件の存在をうやむやにし、結果として天皇に累を及ぼさず、組織を守ることに成功した。

豊田大佐は、BC級戦犯の裁判資料を全国をかけまわり、5000点集めた。そこには、海軍にとって都合のいい資料も、悪い資料も含まれている。 証拠は遺され、後世に委ねられた。

感じたこと

何を守りたかったんだろう

この人たちはここまでして何を守りたかったのかということです。 同じような感じは自動車のリコール隠しが起きたときにも、同じようなことを感じました。

海軍の場合、上層部のだれかが、責任をとって絞首刑になっていれば、前線にいて戦争犯罪に問われた将校・下士官は絞首刑にならないような印象を番組からは受けました。

とかげのしっぽきり

「上の方を助け、下の方をやっつける、と言われ..」 篠原大佐のことについて、豊田大佐が言及したときの発言です。 上の実績からそう見えてしかたないことですね。 政治家の秘書が「自殺」するようなものでしょうか。

また空気か

海軍の人はずいぶんと「空気」「気分」という言葉が好きなんですね。 現場にいた人から当時の軍令部はどのような「空気」でしたかとかいう質問が飛んでいました。 「空気」や「気分」で組織が動いていることをどうも思わないんでしょうか。

口頭指示

軍令部から派遣された参謀が「商船の乗組員の殺害」指示を口頭による示唆でしか行なっていない。 eメールでのやりとりが一般的になった今日このごろでも、都合の悪いことは、電話や口頭での指示しかしない卑怯なやつはいるもんな。 昔だったらそうはいきませんが、今だったら録音ができます。


3日間見続けたましたが、共通して流れるテーマは「全部今の組織にもあてはまることばかり」ということと受け止めました。 おかげさまで、会社に行くにも暗い気分になってしまいました。

番組の構成については、正直最初と最後デスクが出てくる意味がわからなかったです。特に最後。 あの程度の安っぽいコメントするために出てこられると、見ている側としてはしまりがない。 その程度のことは、今までのストーリーの組みたてで十分感じていますから。


空気、反省会の本と東京裁判に関する書籍を並べておきたいと思います。

東京裁判 (講談社現代新書)

東京裁判 (講談社現代新書)

東京裁判 (上) (中公新書 (244))

東京裁判 (上) (中公新書 (244))

東京裁判 (下) (中公新書 (248))

東京裁判 (下) (中公新書 (248))

[証言録]海軍反省会

[証言録]海軍反省会

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

東京裁判を正しく読む (文春新書)

東京裁判を正しく読む (文春新書)

最後に。 私自身はA級戦犯という言いかたを好みません。 級ということばは英語の「class」にあたる訳語で本来「項」と訳すべきものだと考えているからです。 ABC級といういいかたのせいで、A級のほうがより悪いという認識が広まっているのはおかしいと思うからです。 ですが、番組内での表記にしたがって、「級」としました。