番組では、発見された極秘資料と関係者の証言から、「マネー」「経済」というこれまでにない視点から「日本の戦争」を見つめる。
NHKスペシャル|圓の戦争
NHKスペシャル|圓の戦争
極秘資料とやらは見つかり過ぎなんではないですかね…という思いはともかく、ドンパチ部分ではなく、経済面にフォーカスした番組が作られるのは、「戦争は経済の延長」だと思っている私にとってはうれしいことです。
まずは番組の流れから整理してみましょう。
番組の流れ
圓は複数あった
満州事変の当時、圓は日本銀行発行、朝鮮銀行発行、台湾銀行発行の3種類があった。 それぞれ発行権を持っていた。 満州事変の資金は朝鮮銀行発行の圓であり、軍需物資の調達にあてられていた。
当時の朝鮮銀行総裁・勝田主計(しょうだかずえ)は「中国に圓の経済圏を作る」という思想の持ち主。 軍閥が割拠して通貨の種類も1000を越えていたと言われる状況で、統一的通貨である圓が進出して経済圏を拡大しようとしていた。その考えは軍とも一致していた。
このような現地の動きに対して、事態を追認するしかない政府だが、高橋是清・大蔵大臣は朝鮮銀行、台湾銀行の通貨発行権を取り上げ、日本銀行券への統一をはかっていた。しかし、二・二六事件で高橋是清は暗殺されて、軍と対峙し、抑えることができる人物がいなくなってしまった。
預合の発明
朝鮮銀行発行の圓の圏域を広げようと、銀行員を従軍させて、占領地では出張所をすぐに開設。 しかし、「朝鮮」発行の圓は根付かなかった。 そこで、中国聯銀券を発行。紙幣に「中国」を入れて受け入れやすくした。 使わないと、最高で無期懲役の刑、生活必需品の他、阿片の流通にも聯銀券を用いるようにさせた。
「預合」とは現地通貨の発行を国庫を痛めることなく行うことができる仕組み。(預合 - Wikipedia) しかし、それはツケを将来にまわしているだけにすぎなかった。
この仕組みを使って、聯銀券や蒙彊銀行券が発行されていった。
英米との戦い
中国に侵攻するということは権益を持っている英米などと衝突することになる。 国民党政府・蒋介石のバックに英米がついて、統一通貨「元」(発音は"圓"と同じ)の発行をした。これによって、蒋介石は長期戦の礎となる経済力を手に入れることができた。
戦争で必要な物資を、ドルを持てずに金で決済するようになった日本政府。資金の限界も間近と思われていたが… 実際には横浜正金銀行に隠し口座が存在しており、長期にわたり中国と戦争ができるだけの資金を持っていることが判明。 1941年7月日本軍が仏印進駐をした後に、アメリカは日本の資金を凍結した。
そして破綻
国家予算に占める戦費の割合は増大し、8割を越えた。 中国での資金調達の手段として編み出された預合は、満州事変当時に関東軍にいた板垣征四郎や東条英機によって、国家の政策となっった。預合により次々に発行される日本の通貨。 華中・華南では横浜正金銀行が「儲備券」を発行、南方では南方開発銀行が通貨の発行を担当した。
こうして次々発行される通貨はハイパーインフレを引き起こした。 本土決戦を叫ぶ軍をよそに、現地の経済は混乱していった。
戦争が終われば、すべて日本の借金になると知りながら継続していった預合。 わかっている日本の戦費7559億円(現在の価値にして300兆円)のうち、4割は預合によってまかなわれた。
今も国家予算の一般会計のなかに「臨時軍事費借入金」として414億円が計上されている。 返す先の金融機関は消滅している。
思うこと
現地のコントロールを中央ができない状態というのは、『日本人はなぜ戦争へと向かったのか 第2回 巨大組織“陸軍” 暴走のメカニズム』を見たときに見た風景だなと思いました。
今回は、高橋是清というなんとか現地の暴走を抑えようとする人物も登場しますが、結局暗殺されてしまう…というストーリー構成になっていました。
そもそも、軍閥がそれぞれ発行している通貨で混乱している中国に、統一通貨として「圓」を受け入れてもらうんだ…と始めたはずなのに、結果としては、日本の占領地に複数の通貨が流通する状況を作っているのですから、皮肉としかいいようがありません。
軍事費の変遷についてはこちらの動画→【ニコニコ動画】近代日本の軍事費変遷が参考になるのではないかと思います。
番組中に登場した、ふたりの研究者、エドワード・ミラー氏、多田井喜生氏の著書が気になったので、読んでみようと思いました。 備忘もかねて、アフィリンクを貼っておきます。
- 作者: エドワードミラー,Edward S. Miller,金子宣子
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