「坂の上の雲」の時代に一気に世界の表舞台に躍り出た日本。それからわずか30年あまりで戦争への道を突き進んでいくことになる。日本はなぜかくも短期間のうちに世界の趨勢から脱落することになったのか。太平洋戦争70年の年に問いかける大型4回シリーズ。
戦後、軍関係者や研究者が、国策決定に関わった旧軍人や外交官を対象に膨大なヒアリング調査を実施した。その「幻の肉声」の山を手がかりに、第1回は、なぜ日本が孤立していったのかを探る。
NHKスペシャル|日本人はなぜ戦争へと向かったのか 第1回“外交敗戦”孤立への道
番組のサイトはこちら↓
NHKスペシャル|日本人はなぜ戦争へと向かったのか 第1回“外交敗戦”孤立への道 http://www.nhk.or.jp/special/onair/110109.html
以前内容をまとめました、『日本海軍 400時間の証言』と同様に、現場証言ともいえる音声記録などをもとに、構成をしていっているようでした。
- 『日本海軍 400時間の証言 第一回 開戦 海軍あって国家なし』を見て
- 『日本海軍 400時間の証言 第二回 特攻 やましき沈黙』を見て
- 『日本海軍 400時間の証言 第三回 戦犯裁判 第二の戦争』を見て
シリーズ他の回を見てのエントリはこちらです。 『第2回 巨大組織“陸軍” 暴走のメカニズム』 『第3回 “熱狂”はこうして作られた』
なんらかの伝えたいメッセージがあって、それに沿うかたちで現場証言をつみあげる形をとっていると考えたほうがよさそうです。前回の海軍軍令部の番組と同様に「ああそれって、今の日本の政府や企業などでも言えることだよね」というメッセージを受信しました。
今回は「縦割り」「内向き」「その場しのぎ」のせいで、日本外交は信頼を失い孤立した…というストーリーでした。
番組の流れ
番組は大きく2つのパートにわかれていました。 1933年の国際連盟脱退、そして1936年日独防共協定への道です。
1933年 国際連盟脱退
取材していた新聞記者の記録と松岡洋右全権の通信記録や肉声から構成されていました。
1932年松岡洋右全権は、ジュネーブの国際連盟本部へむかった。満州事変への制裁から国際的に孤立しかけている日本にとって、国際連盟脱退などは考えられず、連盟へ残ることが松岡の仕事だった。
当初、帝国主義で利権を確保してきた列強各国は、日本へそれほど厳しい対応をするつもりはなかった。 リットン調査団の報告内容も日本への配慮があり「名を捨てて実をとる」ことを許す内容だった。当然これで決着するだろうと思われていたが…
松岡全権からの「日本も妥協すべき」との意見に対し、内田外務大臣は却下した。政権維持にせいいっぱいで、国内世論を優先する決定…つまり拒否を指示する。満州国の名を反故にする結果となれば、政権はおわってしまうためである。しかも、1933年1月に満州国内部で関東軍が軍事行動を行う件(これ自体「縦割り」の弊害)についても、政府は「これくらいなら列強もとがめだいだろう」という希望的観測をもとに許可してしまう。 もともと、それまで列強各国がやってきたことと日本がやっていることは変わらないから、それほど強い追求はないという希望的観測もあった。
当時は世界恐慌の経済的ダメージから立ち直ることができていなかった。 経済制裁を受けるのは国際連盟に加盟しているからである。ならば「連盟を脱退すればいいじゃない」ということで、脱退をするよう命じてしまう。
内部の都合を優先し、外部へ対しては希望的観測をした結果、小手先の外交に終始する。
1936年 日独防共協定
こちらは、有田八郎外務大臣の孫から提供の資料をベースに構成されていました。
明治の「元老」が構成していた「枢密院」がなくなった結果、政府・陸軍・海軍の間を調整する機能が失われて、縦割り組織の弊害が外交の現場にもあらわになってくる。
中国に対しては、
- 政府: 中国との関係を良くすることで孤立から抜けだそう
- 陸軍: 中国は弱気なふりをしているから強気にでるべき
ということで、バラバラの足並みになっていた。
外務省次官の重光葵は孤立を防ぐ打開策として対ソ連で世界各国手を結ぼうという「防共」という手を思いつく。 この基本線に従って、有田外相らは世界をとびまわるが、ドイツでは駐在武官の大島浩がヒトラーに近づいていた。しかし、ドイツに近づけば世界で孤立すると考えた政府はドイツだけではなく、イギリスとも結ぼうとする。
大島駐在武官はドイツからイギリスに派遣されたリッベントロップがイギリスと結ぶのに失敗した件について情報をかかえていたにもかかわらず、政府に情報を連携しなかった。 イギリスでは吉田茂が交渉にあたっていたが、中国での経済開発をもちかけるなど暴走。 結果、イギリス側から見ると日本は「全部ちぐはぐで日本の意図がわからない」ということで信頼を失っていった。
イギリスら列強各国は「赤化(共産主義化)」を嫌っているという希望的観測と縦割りの弊害の結果、日本はドイツとの協定という一番避けたかったシナリオへと突き進んでいってしまう。
思うこと
政権維持に汲々として民衆の聞こえがいい政策決定をするって…現状を意識した言葉の選択をしているとしか思えませんね。 また、日露戦争のときに弱腰外交といわれ焼き討ち事件までおこされながら現実的な条約を結んだのとは、ずいぶんと違ってしまっているのだなと思いながら見ていました。
今でも見かける光景です。
あと、満州事変にいたる日中関係とかがはしょられているのは番組の都合上しかたなかったのかな。
今回のシリーズについて
番組の冒頭で紹介されていたいあとおり、今回のシリーズでは太平洋戦争につきすすんでいったのは「軍部の独走」のせいばかりではない、ということを主眼に「軍」「メディア」「リーダー」「外交」を切り口にどうして戦争という選択をしたのかという話をしていくようです。 今回は「外交」次回は「軍」ということでどのような現場の肉声が飛び出してくるか楽しみです。
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リットン調査団についてはこちら。 お笑い芸人のリットン調査団とは名前以外なんら関係ないです。
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