『野村ノート』に書いていないこと

文庫版になったので、気軽に買えるようになった『野村ノート』を読みました。

野村ノート (小学館文庫)

野村ノート (小学館文庫)

全体の構成としては冗長で、あっちとこっちで同じことを言っている!というような重複感も感じるのですが、野村監督の経験から出てきた言葉の数々は、具体的なエピソードが共に語られることで、非常に説得力を感じます。 野球ファンであれば、「あ、あの試合のことか!」などと思い出されるのではないでしょうか。

特に印象に残ったのは「決断と判断の違い」の部分です。 決断は「覚悟を決めて何か賭けること」。 決断をしたら、責任は自分で取る覚悟が必要。覚悟に勝る決断なし、迷ったら覚悟を決めること。

判断は「頭でやるもので、知識と経験に裏付けられた基準と根拠が求められる」。 適用する判断基準を誤ると、勝てる試合も落すことになる。

似たような言葉ですが、Whatが大事な決断と、Whyが大事な判断ということになるでしょうか。

選手と監督の関係

本の中では、監督と選手の関係を中心に、

  • コーチング「監督は気づかせ屋でなければならない」
  • 組織「中心なき組織は機能しない」「後継者づくり」
  • 人材育成「エースと四番はつくれない」「『人として生きる』を教え込む」

といった具合に、私がサラリーマン生活をしていく上で感じるところが多い内容でした。 自分の上司や部下、またはお客さんや競合他社のように具体的な誰かを思いうかべながら読まれると、より面白さが増すかもしれません。

ですが、どうしても違和感を拭えない点がひとつ…

選手と監督だけ?

登場人物が、監督と選手しかいないのです。同じくチームを構成する「コーチ」が出てこないことが不思議でしょうがない。 野村監督にとって、監督と選手の間にいる「コーチ」はどういう存在だったのか、言葉にして語ってほしかったなと思います。

というのも上述した「覚悟に勝る決断なし」という言葉を色紙に好んで書いていた人のことを思い出したからです。 南海時代に野村監督とコーチの間柄で過ごし、NHKのドラマ「フルスイング」のモデルになった高畠導宏氏です。

甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ 高畠導宏の生涯 (講談社文庫)

甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ 高畠導宏の生涯 (講談社文庫)

野村監督がヤクルトの監督になった一年め、高畠氏はコーチとして招聘されます。 高畠氏にコーチとしての道筋をつけ、野球の奥深さを教えてくれた野村監督を恩人と講演などで繰り返し語っていたそうです。 しかし、ヤクルトでの野村監督と高畠コーチの関係は一年で終わりを告げます。

「野村監督は変わってしまった」という言葉を高畠コーチは残してヤクルトを去りますが、もしかしたら、野村監督が求めるコーチ像に高畠氏が合わなくなってしまったのではないかと思うのです。 このあたりは本人に聞かないと本当のところはわからないですね。